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ブログtop > 東洋美術 > 牧谿「遠浦帰帆図」 三井記念美術館『東山御物の美』展

牧谿「遠浦帰帆図」 三井記念美術館『東山御物の美』展

「遠浦帰帆図」は大軸の『瀟湘八景図』の中の一点。京都国立博物館の所蔵なので、東京ではなかなかお目にかかれない。10年前、根津美術館での南宋絵画展以来だと思う。

10年かあ。あっと言う間なんだなあ。

牧谿と言う画家を知ったのもその頃でした。その前に、五島美術館で大牧谿展があったらしいけれど、その頃は、まだ知らなかったので行けませんでした。

その後、芸術新潮の特集で知って、根津の南宋絵画展や、国立博物館の国宝展で見て以来、「うーん、やっぱり凄いんだよねえ。」

「遠浦帰帆図」。上手(画面右)から下手(左)に向かって強い風が吹いている。その風に乗って二艘の帆かけ船が岸に向かっています。

下手側の下方では、木が大きくたわみ、その奥、のぼりを上げた湖岸の家。人が二人ほど、木を挟んで、更に二人の人、背を向けて座り、釣りでもしているよう。

小さい、ちょっと離れると、ほとんど人は見えない。

画面奥には、向こう岸の木立、それに続く後方に連なる山の端。

手前の山の端には、点苔(てんたい)と言われる、黒い点が何箇所か打ってあって、風雨に耐え、強く存在する山の岩肌の稜線が、いま産まれたような荒々しさを持って迫って来る。

時と言う遠近法が、遠く奥に消えて行くように遥かな山並みの向こうに、うすくかすかに何そうにも、その山の端の稜線に連なって、下手の後方に、あの西洋の科学的な、数学的な、遠近法を越えて、時の広がりのような茫漠さと、いまそこで生まれたような新鮮な奥行きを感じさせながら消えて行く。


図録などでは全く見えないので、本物を見て気付いた。
下手の此岸と彼岸の山なみの間に広がる湖面が、光に満たされ輝いている。

上手側からは大きくたなびくような薄墨で、大気の流れる強さが印象付けられているので、あの下手側のまるで天上に満たされたような、まっさらな光のたまり場のようなぬくもりは、雲間からさした陽の光なのかもしれない。

帆船のさっそうとした、まっすぐな走り。此岸の、風に流されているとはいえやや誇張された、木々の撓み。
『平沙落雁図』『』『煙寺晩鐘図』『漁村夕照図』に比べると、この絵の中心は強い動きに有るのだと思う。

大気の激しい動き。

だが、遠く消え入るようにつらなる山の端、陽だまりのようなひかり、そして、まるで大風など意に介しないように話しこみ、釣りに佇む人々。

やや離れてこの絵を見ると、手前の人々は茫漠とした時間のような空間に吸収されてしまう。遠くの山の端も消えて行く。船の帆影のような薄ぼんやり。山の端に打たれた黒い点苔。木々の誇張された幹の撓み。そのまわりに漂う流され行く大気。

この世ならぬ、深い静けさと、いま産まれたばかりのような不思議な白いひかりが、ぼんやりとその辺りにだけただよって。

形而上のなにかが、やっぱりあるのかなあ。まあそれが芸術かあ。
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